多くの人に迷惑をかけても稼げるサービスを開発すべきか?

多くの人に迷惑をかけても稼げるサービスを開発すべきか?

とある飲食店予約代行サービスがある。
揉めるのが嫌なのでAとしておく。

Aは検索エンジンで店名を検索すると上位に出てくる。
食べログぐるなびのように店の情報が書いてある。
ぐるなびのように企業がサービスと契約して情報を提供しているわけではないようだ。
食べログぐるなびやRettyのような他サービスからスクレイピングをしている。
そのため、間違った情報や古い情報が更新されずに残っている。

サービスの概要としては、ユーザーが予約したい飲食店と希望の時間を伝えると、Aが電話をして予約を取る、というもの。
電話は人が掛けているわけではなく、機械音声だ。

この問題の問題点は3つある。
1. 飲食店が機械音声とのやり取りを強いられる
2. 飲食店とAが契約関係にない


1について。
ここで言う飲食店とは、主に中小規模の飲食店がメインだ。
大手は予約サイトがあり、HPに予約フォームがあることもある。
ぐるなび食べログから予約を受け付けている店も多い。
ぐるなび食べログの場合は飲食店とサービス提供者が契約している。
こういう飲食店であれば電話の必要はない。
そのため、あえて電話での予約に限定している店がAのサービス対象となる。

電話でしか予約を受け付けていない理由は様々だろう。
単に人手が足りないとか、客と事前にやり取りして提供内容を決めているとか。

そういった店に機械音声で電話をかけるということは、多くの場合、飲食店の意図する予約形態ではないだろう。
人手が足りないのに機械音声の相手をさせられるのは時間がかかるし、コミュニケーションはそもそも成り立たない。


2について。
契約していない企業から本来意図しない方法で第三者との契約が試みられる。しかも公式っぽい装いのサイトから。

これは店としては腹立たしいことだろう。
実際にレビューを見たり、ググったりしたところ、店側も迷惑で困っているという書き込みが多く見られる。

忙しい中、非公式で勝手に電話をかけてきて機械音声の相手をさせられる。
というのはとても腹立たしい行為だ。

そもそも電話でしか予約を受け付けていないのは、電話で話せない相手は客ではないということに等しい。

食べログに情報を載せる載せないということでさえ問題になっているのに、他社の情報をスクレイピングしてきて、その上契約していない相手から勝手に予約電話が掛かってくるなんてのは、許せない店も少くはなさそうだ。


これらの問題に対して、Aも見解を出している。
正確な言い分はググってもらうとして、自分の記憶しているのはこんなところ。
・電話で予約というのは非効率なやり方だ。
・予約時に要望があればコメントできる仕様なのでコミュニケーションは可能だ。
・一度機械音声で拒否すれば以後はサービスから電話かけることはない。
・ウェブページの情報に間違いがあれば店アカウントを作って編集可能だ。
・電話予約だとキャンセル料を取りっぱぐれるがAを通せばキャンセル料が徴収できる

ウェブ業界人の端くれにいる人間なので言っていることが全く理解できない訳ではない。
電話せずに済むならその方が楽だし、電話予約でAがデファクトスタンダードになればやり取りのコストは従来の方式よりも少なくて済むだろう。

でも、飲食店には飲食店の理屈があり、彼らは彼らの合理性で動いている。
それを無視して俺の考えた最強の電話予約サービスをいきなりぶつけてくるのは、営業妨害だと言われても仕方ないと思う。

そもそも、ネットで予約を完結させるなら、ぐるなび食べログを使えばいいだけだ。


ここまで散々批判的なことを書いたけど、彼らのやり方を全否定する気はない。
ベンチャーが事業をやるには、多少迷惑をかけても良いという精神も必要だ。
きれいに怒られないように物事をすすめるには膨大なコストがかかる。
多くの人は現状維持を望むので新しいサービスを実際に動かすまでは導入してくれない。
卵が先か鶏が先か問題と同様に、サービスを導入するには既に実績が無くてはいけない。
上記のことから、小さなベンチャーが成功するには許可なくはじめて怒られたら謝ればいい、とするしかない。

かと言って、今回のA社のやり方が良いという訳ではない。
中小規模の飲食店の貴重なリソースを奪って金を稼ぐというやり方は、大企業に喧嘩を売る迷惑系の人々よりもたちが悪いと思う。
中には恩恵を受けた飲食店もあるだろうけど、ネットで目にした苦情は1つや2つではない。

 

最後にキャンセル料の邪推をしておきたい。
ユーザーが予約をするときには、クレジットカードを登録しなくてはいけない。
キャンセルした際のキャンセル料はどのように徴収してお店に渡されるのだろうか。
徴収はクレジットカードからするとして、お店に勝手に渡せるのだろうか。
現金書留で送ればほぼ確実だろうが、そうはなっていない。
実際は店側からAに手続きをして振り込んでもらわないといけないらしい。
ここからが邪推なのだが、徴収したキャンセル料のうち、実際に飲食店に支払われる額はとても少ないのではないだろうか。
確かに手続きのフローは存在しているが、機械音声で勝手に予約電話をかけるベンチャーが丁寧に1件ずつ人が電話をして手続きをするだろうか。
機械音声で電話をかけているか、もしくは電話すらかけないか、だろう。
フローが複雑であればあるほど、Aに入る利益は大きくなるのだから。
これは邪推なので実際に確認したわけではなく、ぼくの妄想になる。
でも、ぼくの脳内では飲食店に支払われないキャンセル料が利益の多くを占めるはずだ。


以上。
ぼくならこのサービスは(実現できるかはさておき)展開しないし、使いたくもない。
それでも、彼らのはた迷惑なベンチャースピリットだけには敬意を評したいと思っている。

 

 

追記

Twitterでサービス名を検索したところ、良い評判が全くない。

飲食店側の苦情ばかりが出てくる。

10分おきに電話が掛かってくるとか、間違った掲載情報を直してくれないとか、予約を許可してないのに客が来てトラブったとか。

飲食店側としては本当に迷惑しているようである。

そして、運営会社の社長は今季は○億円利益が上がりましたとか、意識の高いことをツイートしている。

従業員も似たような感じだ。

他人のリソースを奪っておいて、そんなことを公言するのは相当な恨みを買っていそうだ。

 

多少迷惑をかけてもベンチャーなら仕方がない、と書いたものの、ここまで迷惑をかけて嫌われているとなると、話は別である。

社会的な信用が失墜するリスクが高い。

何をやっても、あの人ね、と後ろ指を指されて相手にされなくなるかもしれない。

ぼくは、それはあまりにもハイリスクだと思う。

尊敬する社長が、法的にはグレーでもいいがユーザーから支持されるものを作れと言っていた。

ユーザーからの信用が大切なのだ、と。