ボクシング観戦記 赤穂vsカシメロ

正直言うとこの試合には全く関心がなかった。

カシメロは井上を煽ったとかで日本ではヒールらしい。

けど別に井上が煽られたところで、赤の他人のぼくが腹を立てる必要もないし、場外のやり取りはプロモーションだからあんまり興味はない。

10年前の佐藤戦から一切の成長を見せない赤穂と、敬愛するリゴンドーさんと鬼ごっこを繰り広げたカシメロというのが戦前の印象。

 

結論から言うと、赤穂がいつも通りの負け方をしたなと思った。

実際はノーコンテストだけど、赤穂の今後のキャリアを考えると負けだろう。

後頭部への打撃に関しては、フックを振り回してる相手にあれだけ頭を下げたらそりゃ後頭部に当たるでしょとしか思わない。

情けない試合の投げ方of the historyでアミール・カーンのクロフォード戦を上回る試合のぶん投げ方を魅せてくれた赤穂には感銘を受けた。

 

赤穂は組み立てのないぶん回しをするのは仕方がないとして、勝利に繋がらないレフェリーへのアピールと試合中にキレて周りが見えなくなる癖が治らないままここまで来てしまった。

ああいうキャラクターを過剰に持ち上げる日本のファンも悪いと思うのだけど。

 

アピールは一つの技術であるということを書いて、今回のクソ試合の締めにしたい。

アピールは技術の一つだ。

でも、有効なアピールと有効でないアピールがある。

 

まず有効なアピールについて。

これはロマチェンコが上手い。

ロマチェンコはかつてサリドのダーティーテクニックに敗れたことがある。

ローブローとホールド気味のクリンチでひたすらに泥仕合に巻き込まれた。

まだプロ転向したばかりで、アピールも上手くなかったので、歴戦の勇士だったサリドのダーティーテクニックに対応する術を持ち合わせていなかった。

しかし、負けてからのロマチェンコはダーティーテクニックへの対処を磨いた。

アピールもその一つで、試合の序盤から早々にアピールをする。

ロマチェンコはスロースターターな選手なので、序盤から自分の負け筋を消して試合を組み立てていく。

アピールの方法も徹底して安全圏に離れてから。

これこそ勝つための技術である。

ロマチェンコはあまり好きな選手ではないけれど、技術の構築に関しては手放しで褒めざるを得ない。

 

対する赤穂はどうかというと、反則アピールがあまり勝利に繋がっていない。

感情的に反則アピールするだけだし、アピールも安全圏に入る前に相手から目を切ってやってしまう。

反則アピールしてブチ切れて我を見失う赤穂は後楽園名物である。

プンルアンにタイで負けたときも、反則アピールしているうちに叩きのめされた。

あらゆる技術は勝ちにつなげるための布石であり、被害者意識に飲み込まれて冷静さを失い、勝ちから遠ざかるのでは何の意味もない。

 

今回の試合もダメージを負ったのを後頭部への打撃アピールでうまく回復させるダーティーテクニックかと思いきや、そのまま試合をぶん投げてしまった。

後楽園ホールならいつもの赤穂かもしれないが、海外開催のメインで赤穂をやり切るのは才能かもしれない。

 

赤穂は正統派じゃないヤンチャな選手というキャラ付けをしているけれど、本当に悪い奴というのは、勝つためなら何でもする選手のことだと思う。

ナイーブに被害者ヅラして勝利から遠ざかるのは、到底ファイターとは言えない。

 

12Rに渡って同じ展開を繰り返し、安全圏からひたすらに相手を殴り続ける塩試合を魅せつけてくれるシャクールやヘイニーの図太さと比べると、勝負師としての赤穂のメンタルは処女同然だろう。

他にも普通に戦うだけでも十分に勝てるだけの実力差があるのに、クリンチ際で腹を叩いて少しでも相手を削って嫌がらせをするフューリーの抜け目なさも大好きだ。

 

(ちなみに強メンタルPFPはウシクだ。

ウシクのメンタルの強靭さには感嘆するしかない。このことはいつか書きたい。)

 

事実上勝ったカシメロに関しても、正直あまり興味はない。

ボクシング熱が冷めてきたので、ライト級未満を追う気がしないからだ。

リゴンドーさんも嘗ての輝きを失ってしまったし。

 

思い出したのでたまに追っている佐々木尽がいい感じに成長していたことについても書いておく。

佐々木尽はカネロみたいになるといいのでは、と書いたことがあったような無かったような気がするが、順調にカネロ化していた。

かつてはハイガード一辺倒で近づいて左フックしかない選手だった。

最近の試合では、なんとL字ガードを使いつつ、同じフォームでボディフックと頭へのフックを混ぜていた。

カネロが得意とするコンビネーションで、同じフォームでボディを打つと見せつつガードの下がった顔面を狙う打撃を佐々木が見せていた。

相手は階級下の噛ませタイ人っぽいので何とも言えないけれど、かつての佐々木よりも完成度が高くなっていた。

カネロは他にも優秀なトレーナーがついて戦略が洗練されていたり、マッチメイクが絶妙で適正階級を離れたビッグネームを食ったり、謎の判定力で勝利をもぎ取るなど武器がいくつもあった。

佐々木に同じことができるとは思わないものの、フックの破壊力は世界クラスの佐々木の今後には期待したい。

ロランドロメロになるか、カネロになるかは分からないけど。