ロマチェンコは現代最高のボクサーの一人。
初見であればメイウェザーよりも遥かに完成度の高いボクサーであると言える。
しかし、アマチュアでの戦い方が基礎にあるため、バターンボクシングになりがちである。
圧勝を繰り返す中で進化を遂げてきたロマであるが、それを上回る速度で解析されてきた選手であるといえる。
vsロマに関しては、かなり対策が充実してきている。
皆がほぼ同じロードマップで挑んできたので、現代で最も攻略が進んでいる選手であるともいえる。
逆に言えば、それだけ解析が進んでもトップに君臨し続けるだけの、強度と完成度を備えているとも言える。
過去の偉大な挑戦者達が積み上げてきた攻略法は以下の通り
- 頭を狙わずにボディを狙う(サリド以降多数)
- オーソドックスの場合、外側を取られないようにステップ際を左フックで阻止する(リナレス)
- 脚や体をぶつけてステップワークの距離を物理的に潰す(サリド)
- 懐に入り込まれないように右アッパーを当てる(ロペス)
- ピボットで常に正対しつづける(リナレス)
- 連打を単発の強打で寸断する(ロペス)
- サウスポーの場合、遠いジャブで距離を作り、正対を維持する(キャンベル)
- プッシングやバックステップで距離を取り、アングルの角度を浅くする(ロペス)
ロマチェンコの厄介なところは、縦横無尽のフットワークに、正確で素早い連打、非常に高い頭へのディフェンス力、多彩なフェイントにある。
これらをいかに潰すかが、ロマ対策の鍵である。
フットワークを潰す、あるいはなるべく正対し続けてアングルを作らせない。
ロマチェンコのフェイントの駆け引きを無視し、連打を強打で寸断する。
頭ははじめから狙わずにボディとローブローで確実に削りポイントを稼ぐ。
サリドの時点ではクリンチも有効だったのだが、明確な弱点であるクリンチ対策はロマチェンコも充実させているため、これは現在ではあまり有望ではない戦略になる。
さて、これを踏まえた上で中谷がどこまでやれるかであるが、やや武器が少ないように思う。
体格差は大きいものの、中谷は体格差で圧殺するタイプではなく、むしろジャブを丁寧について距離を使うタイプだろう。
右に関しても一発のパワーがあるタイプでもないので、ジャブでどれだけロマを突き放せるか、というのがポイントになってきそうだ。
中谷の勝機があるとすると、どれだけジャブで突き放して、自分の制空圏を確保できるか、制空圏に入ってきた際の攻防で優位を取れるかだろう。
リーチ差で言えば低身長で、身長よりリーチの低いロマチェンコにはかなり有利だ。
このリーチ差で、遠い距離からロマのステップを先回りして潰すことができれば、展開はより難解なものになる。
また、リーチ差を活かすのとアングルへのケアのために、バックステップも鍵になるだろう。
直近のロペスが見せた対策で、バックステップを大きく取ることで、ロマチェンコとの角度を浅くすることができる。
サウスポーであればロマチェンコ特有の鋭い外側の動きに正対しやすいが、オーソドックスだと角度をつけられやすい。
そこでバックステップで距離を遠くすることで、角度をリセットすることができる。
ロペスは強打でロマを入らせない、入ってきても前手前腕部でプッシングをしたり大きくバックステップして距離を取り角度を殺すといった作戦が功を奏していた。
中谷は井岡ジム特有のものなのか、距離感に対する感性が鋭く、距離を維持するための細かいステップワークがよく効く。
ロペスほど鋭く大きいステップバックではないものの、身長が大きく自然に脚の動く中谷のバックステップは大きなポイントだ。
また、入り込まれたときの対処をどうするのか、ロペスのようにアッパーで威嚇するのか、サリドのように体ごとぶつけてスペースを殺すのか、もしかすると打ち下ろしの右なんてのも有効かもしれない。
かつて何度も我々の期待をいい方向に裏切ってきた中谷には期待してしまう。
採点を考えると、アメリカでは人気者優遇の採点がされがちである。
しかし、幸いなことに、ロマチェンコは不人気である。
その実績や実力を考えると、あまりに不相応な扱いを受けている。
旧共産圏はいつも不遇な扱いを受ける。
メキシコ人、白人系アメリカ人、黒人系アメリカ人、イギリス人以外はボクシングをするべきではないのだ。
まあ、ロペス戦はとうてい勝ちを確信できる内容ではなかったが。
そういう意味でいうと、絶対KOでなければ勝てないと言うほどの差はない。
きちんと差をつけさえつれば、判定でも勝てる相手である。