井上尚弥攻略法
ダスマリナス戦は哀愁すら漂うないようであった。
強い選手を工夫(とダーティーテクニック)で弱者が攻略する、というところにカタルシスを感じるタイプなので、簡単に井上の攻略法を考えてみる。
- まともな駆け引きは捨てて一発勝負に賭ける
- 距離を潰す
- ポイント換算を捨てて積極的に回復につとめる
まず、井上相手にまともな駆け引きを挑んではいけない。
圧倒的なパワー差とフィジカル差があるため、ジャブの駆け引きなんかをやっていても井上は嵐のように畳み掛けて試合を終わらせてしまう。
多少の被弾を気にせずに、強打でねじ伏せるだけのパワーが井上にはある。
そういう相手に駆け引きをして下手にスキをつくるのは得策ではない。
それよりも、不要に手出しをせずに、井上が攻めてくる瞬間に強打でカウンターを合わせる。
これしかないように思う。
今の井上の弱点は、多少の被弾を厭わず、KOを狙ってくるところである。
強打を出すために、打つ際はガードが開いていたりすることも多い。
まともな駆け引きは一切捨てて、そのスキに単発の強打を打ち込むのが得策だろう。
幸いなことに、バンタムでは体格的優位を活かしづらくなったのか、ジャブだけで相手を射程から吹き飛ばすような戦いは減ってきている。
そうなると、お互いが強打を打てる距離でカウンターを狙うことができる。
井上は攻めているときのステップインも鋭いため、そこに合わせるカウンターが決まればKOも狙える。
また、井上の打法は下半身、とくに尻の筋肉を最大限使った打法であるため、強打を打つには一定の距離がいる。
ゴロフキンやベテルビエフとはタイプの違う強打者である。
このタイプは体をぶつけてステップの距離を封じることで、威力を低減させることができる。
ジョッシュテイラータイプの際の攻防に強い嫌らしいスモウレスラータイプなら、井上相手にも上手く立ち回れるだろう。
そのためには、井上に匹敵するレベルのフィジカルが求められるのだが。
そして、それらをうまくこなそうと思うと、ポイント計算は捨てること。
12Rで一発当てれば勝てるという勝負に持ち込むのがいい。
ダスマリナスの良かったところは、何度でも立ち上がったところだ。
これはドネアのランニングダウンにも言える。
今の井上相手なら、躊躇なくダウンして、10秒をカウントにすべきだし、ダメージがあるなら何度でも自らしゃがみ込み、抱きつき、ひたすら回復につとめる勝負勘が欲しい。
バンタムは正直役者不足で、人材難の階級ではある。
こんな絵空事を誰が実行できるんだ。
という話は確かにその通りだ。
しかし、実はそんな芸当ができる選手は存在する。
ドネアだ。バンタム級で破格の体格を持ち、アブラハム化したドネアなら井上を体格で圧し潰すことだって不可能ではない。
もう一人、かつてそのドネアを完封した生ける伝説、リゴンドーさん。
圧倒的な距離管理能力と、恐ろしい威力の左ストレートで唐突に試合を終わらせてきた能力の高さ。そしてブーイングを浴びるほど強くなる不動のメンタル。
対井上で最有力なのはやはりこの男だろう。
ロマに負けたとか、干されまくっているとか、衰えたとか言ったところで、誰が期待をせざるをえない、キューバボクシングの最高傑作である。
井上戦にたどり着くには主に契約問題とアラムを乗り越える必要があるが、ぜひ頑張ってほしい。
日本の期待、ボクシング界のスターを打ち砕き、メダルでできた金色に光る笑顔を見たい。
最後に、井上を見ていると、どこか長谷川穂積を思い出す。
圧勝に次ぐ圧勝、どんどん強くなる攻撃力と、ルーズになるディフェンス。
このままでは、遅かれ早かれカウンターの餌食になるんではないかな、なんて思ってしまう。
それがこの記事を書くきっかけなのだが。
今では苦労人みたいな扱いの長谷川穂積だが、指名挑戦者に手も足も出させないなんてことも全盛期ではあった。
ボクシングとはリスク管理のスポーツであると思った出来事は幾度とある。
パワーとスピードのスポーツであると思ったこと以上に。