負け越しかませボクサー達から見る技術の限界

100敗以上しているプロボクサーというのが世界には片手では収まらない程度にいる。

そして、彼らに共通するのが、ディフェンスはそこそこ上手いこと。

当然だけど、100敗してもリングに上がり続けられる選手というのは、それだけダメージが少ないことの裏返しでもある。

KOされると数カ月のサスペンドになるわけで、当然それは試合数の減少につながる。

なので、100敗以上しているボクサーの被KO率はかなり低い。

279敗という伝説的な記録を残しているクリスチャン・ライト氏の被KOはたったの5である。

彼についてはいつか細かい記事を書こうと思うのだけど。

 

彼ら負け越しボクサーに共通するのが、比較的高いディフェンス力に反して、非力なパンチに少ない手数。

あまりダメージはないにも関わらず、手数の差で負ける試合ばっかりである。

 

これは、負けることに需要があり、矜持を持っている彼らなりの勝たない工夫でもあるのだが、同時に技術の限界を物語っている。

彼らの攻撃は、全く相手の驚異にならない。

良いタイミングで入ったとして、相手は止まらない。

なので相手選手はガンガン前に出て打ってくる。

負け越しボクサーはダメージを嫌う傾向にあるため、それらをディフェンスで捌く。

カウンターはあまり打たない。

結果的に、ほぼ確実に安全なシチュエーションでしかパンチを出せず、そういうシチュエーションはそう多くないために負ける。

本人の持てる技術や身体的には、限界近くまで能力を引き出したパフォーマンスをして、被弾が最小限に限られているにも関わらず、彼らは負けてしまう。

 

ここから先は、相手を倒したり威嚇できるほののパンチングパワーや、同時に打っても負けないくらいのスピード、回避動作から素早くカウンターに移行できる身体能力が必要になる。

もしくは被弾覚悟のカウンターか。

極端な話、井上尚弥でも彼らほどの身体能力なら世界王者なんて夢のような話だし、彼らに井上尚弥ほどのパワーがあれば世界王者にもなれたであろう。

それほどまでに、ボクシングはパンチと身体能力の競技なのだと思わされてしまう。

 

ライト氏やアンドレジェブスといった負け越しボクサーも、相手が並の選手なら攻撃する機会が比較的多くなるし、相手が本当のプロスペクトならあまりのパンチングスピードとパワーの差に手を出すスキを見いだせない。

それでもほぼダウンすることなく試合を終える点が負け越しボクサーの矜持を感じるのだが。

 

ポール・マリナッジなんかにももっと高いレベルで似た感想を持っていたのだけど、ボクシングにおいて単純な技術で達人のようにパワー差をひっくり返せることは稀なのだと思う。

 

と同時に、歴戦の技術というものを感じられるので、負け越しボクサーの試合を見るのも面白いと思う。

 

これらを考えると、普通のボクサーは被弾をある程度覚悟して、貰っていいパンチと危険なパンチのリスクリターンを計算するのが当たり前になるし、メイウェザーや井岡やロマチェンコのように、貰わないことを前提にしたボクシングというのがいかに異常なことなのかがよく分かる。

もちろん、負け越しボクサーとメイウェザーと井岡とロマチェンコのスキルが同程度という意味では全くない。