実践 日々のアナキズム 読書メモ

個人的に、この本のテーマは、ボトムアップだと思う。

革命が誰かに組織された革命運動のもとになされるのではなく、個々人の苦境から発生する個別発生的な暴動の結果なされるのだと書いている。

他にも、中央集権的な権威による規格化、画一化、標準化に対して、その反対にある土着という観点と比較して批判的に書いている。

 

勉強になると思う点もあれば、それはちょっと違うのでは、と思う点もある。

具体的には、政治や文化的な面に関しては、ぼくは疎いので勉強になると思わされる面が多い。

とくに、虐げられた人びとによる政治的な要求は、民主主義的なプロセスの中からではなく、暴動に近い革命の流れによって外側から変えられること、民主主義的なプロセスの機能不全は気に入っている。

反対に、産業的な視点での標準化についての批判は、心情としては分かるものの、少し無理があるのではないかな、と思う点が多かった。

 

それでも、この本の狙っている効果としては、我々が当たり前だと思っていること、当たり前に受け入れていることに対して疑問を投げかけ、視野を広げるという点にあると思う。

こういう経験は、ハウツー本の中にはあまりない。

すぐに役に立つものでもないけれど、すごく長い時間の中では、自分の指針を形作ってくれるものだと思うし、貴重なことだと思う。

 

一貫した特定のテーマについて書かれているわけではない(ボトムアップを肯定的に捉え、トップダウンを否定的に捉えるという点では共通しているものの)ので、内容がとっちらかっているのだが、(そのため章立てを構造化しておらず、断章という形で並列気味に書かれる)それもまた、視野を広げるという視点からみると狙い通りであることが、読み終わってからわかる。

 

また、訳者がとても誠実な人だと分かるので、訳者あとがきも読むのをおすすめする。