最近のディフェンスは攻防分離気味になっている
ロマチェンコとカネロ、この二人が現代のディフェンスマスターと呼ばれる選手だろう。
ロマチェンコはフットワークを主体としたボディワーク、カネロはベタ足でブロッキングを主体としたボディワークが主なディフェンスだ。
そのどちらにも共通しているのが攻防分離ということだ。
かつてはメイウェザーやロマゴンがディフェンスのうまいボクサーで、攻防一体タイプだった。
メイウェザーはカウンターを主体としているため、ディフェンスからの攻撃の切り替えが一体化していた。
ロマゴンは近距離で連打型の選手で、常に頭を振って攻撃が交錯するレンジの中で相手の攻撃が当たらない角度を探すのがとてもうまかった。
ロマチェンコやカネロが攻防分離になっている理由の一つは、攻撃に自信があるということがあげられる。
カウンターや流れの中でダメージを与えなくても、自分のターンで確実にダメージが与えられる。
そして、自分よりもサイズの大きい選手の懐に入って攻める必要がある。
そのためには一旦防御に徹してリスクを最低限に抑えつつプレッシャーをかけるのがいい。
メイウェザーはフレームのでかい相手との対戦を避けていたし、ロマゴンはSフライでかつての輝きを失った。
もう一つ、あまりクリンチを使わないというのも攻防分離型の選手の特徴といえる。
というより、攻防が結びついていると、リスク管理上クリンチを使わざるをえないという問題が出てくる。
人の体の構造上、最大限の速度で動き続けることは難しい。
避けてから打つ、という状態だと、避けるという動作でごく短期の瞬発力の残高が減る。
これが攻防分離だと打つところから攻撃を始められるので、一手多く攻撃ができる。
そのギャップを埋めるために必要なのがクリンチで、一旦相手の動きを寸断して立て直すということだ。
メイウェザーは歴代でもトップクラスのクリンチの名手だ。黒人のボクサーはクリンチがとてもうまいが、メイウェザーは群を抜いている。
ここまでの話だと攻防分離のほうが効率が良さそうではあるが、攻防分離にも欠点がある。
ディフェンスマスターではないが、かつてアルツールアブラハムという選手がいた。
今だと村田諒太が近いのだが、ガードを固めてひたすら相手の攻撃を凌ぎ、自分のターンになるとパワーで圧倒する。
規格外の攻撃力があって成立するスタイルだったが、その攻撃力をもってしても負けた。
スピードと手数のある選手がガードの上からひたすら打ち続けて、アブラハムのターンを極力削ることに成功した。
これは村田vsブランド戦でも見られた。
このように、手数のある相手には守勢に回る時間が増える。
ロマチェンコvsリナレスでも似たような場面が多かった。
攻防分離は自分のターンで相手を攻めきる攻撃力がないと成り立たない。
このようにスタイルは一長一短なのだが、小さい選手が階級を上げていく、昨今のトレーニング効果の向上によりパワーとスピードが上がり攻撃力が向上したことなどの潮流から攻防分離スタイルの選手が増えている。
井上尚弥なんかもこのタイプだろう。
攻防一体で突出しているのはフューリーだ。
あの大きさでクリンチで攻撃を寸断するのがとてもうまい。
あと、カネロのジェイコブス戦をあげてディフェンスを取り上げる人は多いが、あの場面は攻撃に結びつかないディフェンスであって、あまり評価の対象にできない。