井上尚弥に技術があるという風潮がいまいちよく分からない

昔から井上は技術があるとか、ディフェンスもいいという話をする人が多いけど、正直よく分からない。

井上はデービスと同じで、単に早くてパワーがある、階級において規格外のパワーがある選手というイメージで、攻撃のパターンは多くないし、被弾も意外とよくする。

それでもパワーがあるので相手に攻撃のチャンスを作らせない。

井上のパンチは特徴的で、ほぼ全てのパンチがパワーパンチ。一発一発を後ろ足を蹴り込んで打つ分パワーがある。しかし、素早い連打ができるわけではない。

単発気味の連打を繋げる能力が高い。

しかし、攻撃のバリエーションが多いわけではなく、ステップインして打てるスペースが必要になる。頭をつける距離ではショートの強打が打てない。

体を寄せられると上体が浮く癖もある。この辺りはショートレンジでも強打が打てる選手、たとえばスペンスやデービスと比べると明らかに劣る。

これは過去の試合でも、階級が上の選手とのスパーを見てもわかる。

(スペンスは背筋の下部がとても強いのか、股関節と上体のスタンスを維持し続けることでショートレンジで体を押し込まれても上体が浮かずに強打が打てる。ポーター戦は見事だった。)

 

自分の距離で攻撃できるならめちゃくちゃ強いが、その幅は限定的なのが井上だ。

じゃあなぜここまで勝ち続けてきたのかというと、ジャブのパワーがあったからだろう。

ジャブを打つだけで相手がショートレンジの外側まで押し出されるので、自分の得意な距離を維持することができた。

これがバンタムに入ってからあまり機能しなくなったように思う。

普通にジャブの打ち合いが成立してしまう。実際にマロニーちゃんにショートレンジまで体を寄せられるシーンも以前より増えた。マロニーちゃんはそこまでフィジカルが強くないのでショートレンジの揉み合いを維持できずストレート系で押し出されていたが。

そして、ジャブの差し合いでは井上はよく被弾する。ここ3戦くらい、すべてジャブの差し合いで顔を跳ね上げられていた。

幸い今のバンタムではスリックな黒人ファイターもインファイトに優れたメキシカンもいないのだが(リゴンドーはちょっと特殊枠)、これが良くも悪くもいまのバンタムの選手層ということなのかもしれない(ゆえにあまり面白みがない)が、よく対井上で名前があがるシャクールとフェザーでやるとかなり分が悪いだろう。

というか、今のフェザートップ相手でもかなり分が悪そうだ。

無数のフェイントの中に強打を忍ばせるロマチェンコとは対象的に、全てを強打で打つ井上のスタイルだが、その強固さ故に攻撃の幅は狭い。

 

ディフェンス面では、井上は決して良くないように思う。

ジャブの差し合いでも被弾するし、ディフェンスは主にステップとガードになる。

たまに見せるステップを使ったアウトボクシングもあまりスムーズではないし、そこまで目が良いタイプにも見えない。

押し込まれてショートレンジになると亀ガードしかできなくなる場面もある。

井上の最大の防御は攻撃力で、避ける暇があるなら打って相手を下がらせたり防御させたりするというスタイル。今まではこれで十分に機能した。

これがどこまで通用するかは井上のフィジカルと減量、そして相手の耐久性によるところだろう。

 

井上のボクシングが技術的に優れているとは思えないし、リングIQが高いとも言えない(高くてもボクシングの幅が狭くて機能しづらいのかもしれない)。

ただ攻撃に関してはかつてないスタイルとフィジカルを持ち合わせているし、いまの井上を攻略できそうな選手がバンタムに見当たらないのも確かだ。

リゴンドーに攻略してほしいが、ボブアラムがマッチメイクを許さないだろう。ドネアの二の舞はごめんだ。

 

井上をパッキャオと重ねる人もいるが、ぼくは井上のスタイルではパッキャオになれないと思う。

パッキャオは対戦相手に恵まれて、上の階級で当たる選手の多くは下の階級から上げてきたスター選手だったし、KOパンチャーだったが自慢の左ストレートを見せパンチにして判定型にスタイルチェンジする柔軟性と、何よりも異常なほどの耐久性を持ち合わせている。

 

随分と批判的に書いてしまったが、井上が圧倒的なのは間違いない。しかし、過大評価のしすぎも、過剰なほどの期待をするのもバランスを欠く気がする。

うまくスタイルの幅を広げながらフェザーやSフェザー辺りまで行けると対戦相手の選手層が厚くなるので、その辺りまでいけると面白いかなあとぼんやり考えている。