たった一人の孤独な復讐

時事ネタにあまり触れるつもりはなかったのだけど、安倍元首相の殺人事件について、犯人が成し遂げたことがあまりに凄いと思ったので思考を吐き出してみる。
この事件を単にテロリズムとして捉えるのか、非力な人間がたった一人で強大なカルト宗教とカルトと癒着した政治家に立ち向かう話として捉えるのかによって、見方は大きく分かれる。
今回は後者の視点から。


まず、犯人が成したこと、つまり銃を密造して警備の穴をついて演説中の政治家を銃殺する、というだけでとてつもない成果と言える。
特に、ここ一番という場面で確実に人を銃殺する、それもお手製の拳銃で、ということがどれほど難しいのかは、想像にかたくない。
離れたところにいる人を的確に銃殺するというのは、相当なスキルと、本番でそれを成し遂げる強靭なメンタルが必要になる。


立ち向かった相手のカルト宗教と政権与党の元首相、というのも一人の凡人が相手にするにはあまりに強大だ。
どんな理由であれ殺人は良くないという正論を吐くことはできるけれど、じゃあ一人で合法的にカルト宗教に立ち向かってどれほどのことができるのか。

しかも相手は我が国の過半数議席を占める政権与党と結びついていて、大手メディアからもタブーとして触れられない存在となっている。
事件が起きてもなお、大手メディアから名前が出てこなかったことから、その影響力の強さがわかる。


統一教会の名前とその悪事をこれほど多くの人の目に晒すことができた時点で、犯人の取った行動が、目的に適ったものであると証明している。
これは確かにテロリズムではあるかもしれないが、非力な人間が成し遂げた復讐としては、とても大きなものであった。
殺されたのが安倍元首相であるという事実を除けば、構造的にはフィクション映画の題材として十分に成立するだろうし、犯人は主人公の側で、善として描かれることだってありうる。


これほどまでに復讐を成し遂げられる人は稀である。
臥薪嘗胆とか、捲土重来という故事成語が思い浮かぶ。


同様に、NHK党の立花孝志氏についても、似たような感想を持っている。
彼の言動は下品だし、支持はしないものの、たった一人で人生を賭してNHKに復讐すると誓い、国政政党にまで躍り出た彼の行動は見事だと思っている。
にちゃんねるに一人書き込んでいた非力な人間が、数十年のときをかけて虎視眈々と、しかし着実に影響力をつけて強大な権力構造の喉元に刃をつきつけている。
彼もまた、ある側面から見ると話題先行の下品な人間でしかないかもしれないけれど、たった一人でこの国の根幹に巣食う強大な権力と戦うヒーローの側面もある。
いつの頃からか、NHK党が議席を取ることについて、あまりネガティブなイメージを持つこともなくなった。
彼は持たざるものにとっての英雄でもある。
持たざるものにとって、最高の戦略はいつの時代もゲリラ戦法だ。
彼がどう戦うかは瑣末な問題で、何を成し遂げてきたのかに意識を向けてみると少し違った認識になる。


安倍元首相の殺人犯と立花孝志氏を併記するのは、あまりよろしくないことだと思う。
でも、彼ら二人の成し遂げた復讐に関しては、賞賛せざるを得ない自分がいる。

なお、ぼくは今回の参院選ではNHK党にも自民党にも投票していない。