カレ原作の映画らしく、説明や過剰な演出はない。
控えめな演出に、状況の把握が難しく、前提知識が求められる。
この映画と近い年代に制作されたカレ原作の映画、誰よりも狙われた男とテイストは似ている。
誰よりも狙われた男との比較でいうと、出演者が豪華で、内容がややウェットだ。
豪華というのも、アイドル俳優やアクション俳優ではなく、イギリスらしい演技のできる実力派の渋いキャスティングとなっている。
そのため、映像的に機を狙ったような奇抜なことはあまりなく、真正面から演技を撮るような映画になっている。
特に主役のゲイリーオールドマンの演技は抑制的で、ほぼ感情を表に出すことがなく、微かに動く表情や声の抑揚から彼の内面を察する必要がある。
これが作品にリアリティと重厚感を与えていると同時に、理解の難しさを強いられる。
この、リアリティのある表情を見るというのが今作の一つの見方になってくると思う。
内容的にはスパイ映画であると同時に、男たちの感情の機微を描くということで、誰よりも狙われた男よりもウェットな仕上がり。
個人的には誰よりもの方が好き。
あとは、ベネディクト・カンバーバッチの異質感。
彼は顔の造形のみならず、姿勢が非常に良く、それ故に名優達の中に入っても良くも悪くも目立つ。
出世作のシャーロックのイメージが未だに強く、聡明な役柄を演じることが多いし、今作もそういうシーンが多いのだが、実はウェットな演技もうまい。
この映画は多くの人にとってストーリーをすんなりと追えるものでもなければ、演技も共感できるような創作的な分かりやすさはない。
それでも、何度でも見られらるような強度を持った映画であると思う。