ロマチェンコvsテオフィモ・ロペス雑感

この試合の感想としては、ロマチェンコの対策が成熟してきている中で、ロペスがきちんと対策を練ってやることをやったという印象。

 

ロマチェンコはパターンボクシングで、あまり適応力があるタイプではない。

マチュア歴の長いボクサーはこういうタイプが多い印象がある。

適応力のあるタイプというと、メイウェザーやウォード、現役だとクロフォードや井岡など。

ロマチェンコはパターンにハマったときの絶望感はあれど、メイウェザーやウォードみたいに序盤の数Rが終わったら試合の趨勢が決まってパンチは当たらず選択肢がなくなっていく、真綿で首を締められていくような絶望感はない。

 

ロマチェンコは適応力があるタイプではないが、パターンボクシングの完成度と特異性で初見で対応するのはとても難しい。

特に厄介なのがディフェンス力の高さとアングルを取る能力、強弱をつけながら打つ連打のスピードと正確性。

 

まずディフェンス力で見ると、頭を狙ってもほぼ当たらない。

3Rの世界で300勝1敗の選手なのだから、ディフェンス力はアマチュア史上屈指のもの。

メイウェザーだって序盤はパンチを貰ったが、ロマチェンコは序盤からほぼ貰わない。(その代わりメイウェザーは終盤には全く貰わない代わりにロマチェンコは多少貰う)

 

次にアングルを取る能力。

ステップワークの速さと豊富さで、オーソドックス選手の前足の外側に踏み込む速度が異様に速い。

そこから連打に繋げたり、すっと射程から離れる。

同じアングルといっても、ボディワークを中心とするロマゴンとはタイプが違う。

 

最後に連打と正確性。

ロマチェンコは一発が強いというわけではなく、手打ち気味の細かい連打が早く、その中で強弱をつけて的確に急所を撃ち抜く能力がある。

 

これらが組み合わさってロマチェンコのボクシングを構築しているわけだが、攻略法がないわけではなかった。

 

ロマチェンコ対策はオーソドックスとサウスポーでやや異なるのだが、ロペスと同じオーソドックスで特筆すべきはサリド市長とリナレスだろう。

 

最初にロマチェンコを攻略したオルランド・サリド市長はの戦略は過去の対戦相手で最も洗練されてたといえる。

体重超過だとか、ダーティーだとか言われてあまり戦略について語られていないのだが、彼がいなければロマチェンコ対策は5年以上遅れていたと思うし、ロペスの勝ちもなかったはずだ。

 

サリドのロマチェンコ対策

 

対ディフェンス力

これに関しては、はじめからサリドは頭を狙うのを捨てていた。

当たらないことを分かってか、アマチュア上がりが12R持たないことを狙ってか、ベルトラインの下や脚を含めてとにかくボディに攻撃を集めることでロマチェンコのディフェンス力に対抗していた。

頭には当たらなくても、ボディは当たる。

 

対アングル

サリドのアングル対策は、自分の前足を相手の前足の外側に置くことと、脚や体ごとロマチェンコにぶつけることでフットワークのスペースを潰していた。

 

対連打

KO寸前まで追い込まれつつも、サリドはロマチェンコの連打に耐えきった。

その理由の一つには圧倒的な体重差もあったと思うが、ロマチェンコの連打に細かく反応することをはじめから諦め、連打を寸断する戦略で対応していた。

後の選手はロマチェンコの手打ち気味の軽打やフェイントに細かく反応しようとするも、あまりの数の多さに飲み込まれてしまった。

だがサリドは歴戦の勇士だったので、はじめから対応を捨てていた。

上記のボディやスペース潰し、クリンチを多用することで早めにロマチェンコの連打を寸断することに成功した。

その後のロマチェンコはクリンチ対策を充実させていた(バンザイ抜け、執拗なレフェリーへのアピール、ラフなクリンチ際のパンチ等)

 

これらは今から見ると100点満点、いや120点の対応だった。

ロマチェンコ対応を5年、いや10年進めた男として、サリドの名は語り継がれることだろう。

 

 

さて次にリナレス

リナレスの主だった対策は3つ。

ボディ打ち、ピボット、左のロングフック。

ボディ打ちはサリドと同じだが、本来ヘッドハンターのリナレスは序盤に多用していたボディを忘れて中盤以降は頭を狙って空振りを続けることになる(そのおかげでダウンが生まれたのだけど)

中盤以降もボディを打ち続けていたら、もっとラウンドは長引いたのではないかと思う(もしくは勝ちもあり得た)

 

次にピボット

これはリナレスが昔から好んでやる動きで、素早いピボットで体の向きを変える。

これがロマチェンコにはバッチリ当たった。

サリドとは違い、前足の外側を取られることは多かったし、そこから踏み込まれていたが、リナレスはピボットでロマチェンコに正対することに成功していた。

 

次に左のロングフック。

これもロマチェンコのサイドアングル対策で、体の外側を取られる瞬間に左のロングフックをぶつけるもの。

 

リナレスが惜しかったのは、もともとガラスの耐久力のリナレスは攻防分離気味になりがちで、連打をまとめるのは速いがカウンターが少ないところだろうか。

ロマチェンコの連打を寸断する攻撃に欠けていた。

 

こう見ると、ロペス陣営が彼らの戦術を下敷きにした上で、自分のやれることをやったというのがよく分かるだろう。

 

ちなみに今回のロペス戦ではあまり関係ないのだけれど、ロマチェンコはサウスポーが苦手だ。

というのも、対サウスポーだと前足の外側を取る動きができなくなるため、サイドアングルがあまり機能しなくなる。

キャンベル戦で苦しんだのはアングルが取れなくてジャブの攻防で膠着したのが理由といえる。

 

前置きが長くなったが、ロペスがいかにロマチェンコを封じたのか、簡単に書いておく。

まずはボディ。

1R目に何度もボディを打っていたのを見て、ロペスはちゃんと対策をしてきたのだな、面白くなりそうだと確信した。

その後もロングボディやボディフック、ボディカウンターを多用していて、この試合の有効打として試合を決定づけたのは間違いなくテオフィモのボディだろう。

他にもアングルの攻防で左フックを見せていたり、序盤にはピボットをして、アングルを取らせないという予習の万全さを見せていた。

 

連打の寸断も素晴らしかった。

一発軽いのは食らってもいいが、一方的な連打は許さないという姿勢。

ロマチェンコの攻撃の始点に合わせてカウンターや反撃をしたり、クリンチで寸断したり、終盤には打ち込まれる場面もあったが試合の大半でロマチェンコの一方的な連打を許さなかった。

ロペスならではの工夫もあって、過去にロマチェンコを膠着状態まで持ち込むことができてもそこからポイントまで繋げる選手はそれこそサリドくらいだった。

ロペスは最近のロマチェンコが見せる攻防分離気味なガードの上を長めの距離で叩いて、攻撃の始点を遅らせつつポイントメイクしていたのが良かった。

あと、これほどまでのサイズ差を作れたのもサリド以来で、これがなければ細かいところで刺し負けていたのではないだろうか。

 

中谷戦のロペスを見た後では、あまり対策をしないまま負けてしまうのかなと思っていたが、ロペスは十分に準備をして、やれることをやって勝ったといえる。

まだ一度しか見ていないので軽い感想になるが、見返すとロペスの対策の素晴らしさがより分かりやすいのではないだろうか。

 

 

ロマチェンコのボクシングは完成度は高いが適応力はない。

完成度の高さと特異なスタイル、これだけでも十分すぎるほど強力であったが、これだけ映像に溢れた現代でトップクラスと試合を重ねるとパターンやスタイルは解体され、やがては手の届くところまでやってくる。

なによりも、オルランド・サリド市長に2戦目で当ってしまった。これがロマチェンコにとって不運極まりなかった。

今回のロペスは6年ぶりにやってきた若きサリドだったのだ。

 

この後のロペスはSライトに上げるようだけど、Sライトもまた4団体統一の機運がある。

WBSSプログレイスの強打を相撲ボクシングで押し切ったイギリス人力士、ジョッシュテイラーとの大一番に期待している。

 

ボクシングは対戦回数が少なく、ほぼ1回限り、そして対人競技。

特異なスタイルは大きな武器になってきた。

しかし、それも時代とともに変わりつつあるのではないだろうか。

メイウェザー・ウォードという対応力の神様が引退した今、改めて対応力の価値というのが上がっているように思う。

そして、現役最高の対応力を持ったクロフォードが長い迷走を経てウェルターに帰還したブルックと対戦する。

フレーム・技術ともに過去の対戦相手の中では一番の強敵を相手にクロフォードはどんなパフォーマンスを発揮するのか、いまから楽しみで仕方がない。

 

 

 

# 追記

見直してみると、ロペスの対策はやはり素晴らしかった。

上記したボディやピボット等に加えて、近づいてきたら相手を左手の前腕部でプッシュして押し返したり、アングルを取られたときに真っ直ぐバックステップするんじゃなくて、ピボットしてからバックステップステップして正対したり。

遠い距離にロマチェンコを釘付けにして長所を削ぎつつ、ボディとロングでポイントメイクする。

あまり当たらないけどジャブやストレートの長くて強いパンチ、これはとても効果的だった。

キャンベル戦でも似た光景はあったが、ロマチェンコは遠い距離だと武器が減る。

ロマチェンコがアングルをつけるにはより多くのステップが必要なのに対して、ロペスは少しのピボットで正対できるし、ロマチェンコのリーチではジャブ単発の差し合いにそこまで優位がない。

誰もが考えたロマチェンコの距離を作らせない、という戦略を強くて速いジャブとストレートに加えてロングのボディで実現したのは見事と言う他ない。

 

あまり当たっていなかった右のショートアッパーやショートフックも、内側に入られないために十分すぎるほど機能していた。右のショートがあるおかげでアウトサイドにロマチェンコを釘付けにして、アウトサイドには幾つかの策で対応する。

もはやサリド市長以上の戦略だ。

 

あとWOWOWの実況解説は偏りすぎなので現地音声のみか英語実況で見たほうがフラットに見れる。

打撃音聞いてると明らかにテオフィモの見栄えがいいし、ロマチェンコは自慢の連打とその中の強打を殺されてるので、テオフィモにポイント振られるのは理解できる。

極端な言い方をすると、ロマチェンコの手打ち数発はロペスのボディやガード越しの強打単発より劣っても仕方がないように感じる。