釣った魚に餌をやらない、恋愛と価格差別

恋愛では釣った魚に餌をやらないという現象がよく見られる。

これは、経済学の価格差別という概念で説明できる。

価格差別とは、同じ商品でも、高く買ってくれる客には高く売りつけ、安くないと買わない客には安く売るという戦略がもっとも利益を最大化するというもの。

例をあげると家電屋の値下げで、値下げ交渉をしないで買ってくれる人には高く売るし、値下げ交渉をする客には一定の値段まで下げる。

 

恋愛では価格、という概念はないものの、コストという概念で説明できる。

価格をコストで置き換えると、高くても買ってくれる客=コストをかけないでも自分のことを選んでくれる人。

安くないと買ってくれない人=コストをかけないと自分のことを選んでくれない人。

となる。

コストを努力と置き換えてもいい。

 

安定した関係下では、パートナーはコストをかけないでも自分を選んでくれる傾向にある。

つまり、そういう人にはあまり努力をしないのが合理的、というわけだ。

そして、他のコストをかけないと選んでくれない人、たとえばキャバ嬢とかに入れあげる構造が出来る。

 

じゃあなんで安定したパートナーは、コストをかけなくても他のところにいかないのか。

どれだけ長い付き合いでも、愛情(やお金)を注いでくれない人のところに居続けるのは、合理的ではないではないか。

これにはいくつかの仮説が思い付く。

 

1. プロスペクト理論

プロスペクト理論とは、行動経済学で使われる概念で、人間は様々なバイアスがあるため合理的な判断ができないというもの。

この場合は、人は持っているものの価値を高く見積もる傾向がある。

つまり、既存のパートナーは本来の価値よりも高く評価してしまっているため、関係を解消できない傾向にあるという仮説。

 

2. 取引コスト

自分のパートナーの努力が足りないとしても、恋愛市場で別のパートナー選びをするのは大変だ。

別のパートナーを探すには、出会いの場に行ったり、相手とデートして本当に価値のある人か見極めたりするコストがかかる。

この取引コストを高く見積もる人は、既存のパートナーで甘んじる選択が合理的である場合がある。

 

 

3. サンクコスト

サンクコストとは、これまでかけた費用のことを言う。

これは取り返せない費用なので、どれだけサンクコストが大きくても、現状でより良い選択をすることが大切なのだが、人間はサンクコストを無視できずに損をしてしまう。

別名コンコルド効果とも言う。

高すぎる開発費をかけたコンコルドの開発を打ちきれなかった、というもの。

交際においては、お金だったり年月だったり、掛けたものが大きければ大きいほど、その相手から離れられない。

 

ふと思いついたので、こういうアイデアを書いてみた。

じゃあどうすればお互いに努力を続けられるのか、あるいは努力をやめた相手を切って別のパートナーに切り替えられるのか、というとあまり答えがない。

 

プロスペクト理論の対策としては、いまの相手が新しく交際を申し込んできたとして、受け入れるかどうか、という視点を取り入れられる。

手元にあるものを高く見積もる傾向を外して考えるために、手元にあるということを一旦外して考えるということ。

とりあえず一旦交際を解消してもいいかもしれない。

 

取引コストは、常に取引コストを最小化しておく。

つまり、いつでも出会いの場に顔を出し、複数のデート相手を見つけ、候補を手元に置いておく。

これが倫理的なのかは知らない。

 

サンクコスト効果についても基本的にはプロスペクト理論と同じで、自分の状態を一旦脇に置いて、フラットに考えることが大切だろう。

まっさらな状態で、目の前の相手と付き合っていくのが今後5年の自分を幸せにしてくれるのか?と自分に問うてみるのもいいかもしれない。

 

これは相手を切る方法ばっかりじゃないか、しかも非倫理的だ。

という感じもするので、いまの相手の努力を引き上げる方法を考えてみる。

もっとも手っ取り早いのは、努力が少ないときには相手を選ばないことである。

このラインを下回ったら家に帰るとか、実家に帰るとか、他の人と遊びに行く決めておく。

そうすれば自分は相手に努力を求める人であるとアピールできる。

 

このために必要なのは、やっぱり他の選択肢を持っておくことなので、デート相手や候補を数人作っておくのは大切なことかもしれない。

一人の相手しか選択肢にないと、寂しかったり暇だったりで相手を選ばない、という選択ができなかったりする。

倫理的ではないが、倫理と合理性はえてして相反する。

どれだけ親しい中においても、自分はお高い人間なのだぞ、それだけの努力をしないと、他のところに行ってしまうぞ、というアピールは相手の努力を切り下げないためには大切なことなのだ。

 

お高い人間であるためには、実際に魅力を高めておくのも効果的だ。

需要曲線と供給曲線で考えたとき、自分を求める人が多ければ多いほど、自分の価値は高まる。

供給量はこの場合、自分ひとりなので考えなくていい。

どれだけ他の人から求められるような魅力的な人間でいられるか、それをパートナーに認識させるか、ということも、自分の価値を相手に知らしめるために大切だ。

 

 

ここまで書いておいてあれだけど、これはあくまで思考のお遊びであって、ぼく個人はもう少し違う視点で人付き合いをしている。

そもそも合理性であることと、人付き合いで幸福になることはまた別だと思う。

とはいえ、人間は様々な構造上の理由で釣った魚に餌をやらないようになるらしい。

経済学的なフレームワークでは、こんな感じでそういう現象が起こり、対策はこんなのがいいのでは、ということを書いた。

 

他にも、ホルモンが関係していたり、心理学的な考え方だったり、様々な理由で人は釣った魚に餌をやらなくなるようだ。