ボクシング漫画といえばはじめの一歩とかリクドウとかあしたのジョーって話をよく目にするんだけど、個人的にはあんまり刺さらない。
そういうわけで、おすすめ2選。
1. ZERO 松本大洋
かなり古い漫画で、松本大洋でも初期の頃の作品。
最近のものほど松本大洋節みたいなのは効いてなくて、スラスラ読めるわけではないけど、比較的読みやすい。
ピンポンのようなスポコンでもない。
主役は長期防衛を重ねる世界王者で、長く防衛を続けキャリアも終盤に差し掛かるが、内在する暴力性を発露する相手が見当たらない。
王者の孤独と圧倒的に踏み砕かれる敗者。
ぼくが好きなのが敗者の側で、松本大洋はこの敗者を描くのが上手い。
必殺技も駆け引きも出てこないのだけど、冷たくドライなところにボクシングのリアルを感じさせる。
上下2巻しかないのに重厚、終わり方も素晴らしい。
2. RIN 新井英樹
これはSugarからの続編なんだけど、このシリーズはRINだけ読めばOK。
これもまた似たような漫画で、圧倒的な才能を持つ若い世界王者が、その実力ゆえに孤独になり、対等に戦える相手を求めるという話。
新井英樹は癖のある作家で、良くも悪くもとっ散らかっている。
読みにくいし、過剰な演出が多々あるが、ボクシングの才能が見せつける残酷さが本当によく描かれている。
友情努力勝利なんてのは漫画の中の世界で、優れたボクサーの中には本当に天才がいる。
凡人の努力を一瞬で無に帰す、それでいて礼節なんてものを知らないクソ野郎が。
今作の主人公はまさにそういうタイプで、ボクシングにだけは真摯なんだけど、露悪的に振舞っている。
漫画表現として天才を描くのも上手く、スポーツ漫画家ではないのにボクシングシーンが異様に上手い。
ああ、普段見てる才能ってこういうのだよなって。
メイウェザーとか、ロイジョーンズとか、参考にしてるんだろうけど、こういう感じだよなって。
主人公がワナビーに、お前は俺に憧れてるんだろうけど、お前はこっちじゃない、俺みたいな奴にやられる側だって吐き捨てるシーンがある。
こういう残酷さ、讃えられることのない敗者、こういうところがとても良い。
打ち切りになってこれもまた4巻で終わってるので短くまとまってる。
格闘技って、他のスポーツにはない残酷さがある。
圧倒的な差を嫌というほど見せつけられる。
プライドごと踏みにじられる。
一部の才能に光が当たるが、その下にある無数の踏みにじられた屍に目線を向ける人はいない。
だからそれを見ようとか、讃えようって話ではなくて、そういう残酷さを感じられるフィクションにはリアルさがある。
そりゃあ漫画として一進一退の攻防とか、必殺技があったほうがいいんだろうけど。
あとzeroが書かれてたのは20世紀で、30歳でもうベテラン、しかもミドル級を10年防衛の統一王者超長期政権。
それがえり得ない設定だったようだけど、30歳で初戴冠、その後4団体を統一し10年防衛した、漫画を超える王者ホプキンスが出てくるまでにそう時間はかからなかった。