金融バトルアニメで、非常に良くできている。
下手な経済ドラマよりも調査がしっかりしているし、基礎知識なしでも、金融の知識があっても楽しめる骨太な仕上がり。
と言っても2011年放送の作品で、リアルタイムで見ていたのを思い出して再度視聴した。
以下ネタバレと解説
基本的な対立構造は、未来vs現在。
この世界においては、未来を担保にキャッシュを手にすることができる。
つまり、負債や借金を意味する。
将来を犠牲にしても現在の安定を取るか、目先の安定がなくなっても、より良い未来の可能性を残すか、ということである。
三国のやっていたこと。
三国は未来を犠牲にしても現在の安定を選ぶという選択をとっていた。
輪転機を回すことで、ミダスマネーを発行することができるが、ミダスマネーは未来の可能性と紐付いているため、未来の可能性を犠牲にして極東金融街(現実世界と対を成す金融世界)の資金量を増やしている。
増やしたミダスマネーは日本円と同じように現実で使える。
このミダスマネーで現実世界の日本国債を買うことで、日本国民に金を貸付け、現在の現実世界の国民生活を維持しているというわけである。
現実世界の未来の可能性→ミダスマネー→(現実世界)→現実世界の国債の購入→現実世界の国民生活が安定
というわけである。
分からなくても楽しめるので理解しなくてもいい。
Cとはなにか。
端的にいうと、金融危機のことだ。
恐らくCrisis: 危機 から来ている。
我々の世界では金融危機が起こっても国が消えたりはしないが、Cの世界では現実世界のお金の信用力とミダスマネーの価値が等しいため、現実世界で金融危機が起こると金融街にも問題が出る。
金融街の資産は現実世界の未来を担保にしている。
現実世界の危機→金融街の危機→現実世界の消滅
となるわけである。
そして、金融危機は連鎖していくため、他の地域で起こった金融危機が他の国に派生する。
今回はシンガポール金融街が危機に陥ったため、アメリカに一度向かったものの、アメリカが他の国を犠牲にすることで難を逃れ、次は極東金融街に向かってきた。
これを三国が未来を更に犠牲にして防ごうとしていた。
対三国戦略
最終的に三国を倒した戦略は、円の価値を暴落させるだった。
通貨の価値は信用によって成り立っている、というのは何度も繰り返されてきた。
そして、金融街では資産が戦闘力であるため、極東金融街でトップクラスの資産を持つ三国の資産、つまり円と円に紐づくミダスマネーの信用を暴落させたわけである。
円は紙くずになると庶民がパニックになってしまえば、円の信用なんてまたたく間に暴落する。
そして莫大な戦力差にも関わらず互角の戦いができたわけである。
エンディングとはなんだったのか
一連の流れは、
三国が緩やかに未来を犠牲に現在の安定を維持していた
金融危機(C)の連鎖ダメージを防ぐため、三国はさらなる日本(極東金融街圏)の未来を犠牲にしようとする
それに対して主人公が未来を犠牲にするなと対立
未来を犠牲にしない代わりにCのダメージを食らうことに
その結果、日本の円の価値はなくなり、ドルが通貨になる。
自国通貨がなくなると、通貨の発行権がなくなったり色々と困る。
更に高層ビル群は消え、なんとなく貧乏な社会になっている。
しかし、どんどん子供(未来)が減っていた社会に子供が溢れるようになっていた。
という終わりである。
三国と主人公の対立
三国は擬似的な日本の現状である。
赤字国債を発行し、少子高齢化で徐々に未来が悪くなっても現在の生活を優先する。
歳上の三国がこの役割、というのは大人≒政府などのメタファーであろう。
それに対して主人公は存在そのものが未来であると言える。
三国に対して若く、悩み揺れながらも未来を選ぶ。
三国に比べると困窮の重みを知っているわけではないが、一般的な若者よりは金に血の匂いを感じられる。
それでも未来が大切だと言い続ける公麿は未来そのものではないだろうか。
最後に出てきた上の存在
マサカキが何度も言う"上"というやつである。
アレは恐らく神だろう。
神というのは勿論比喩で、アダム・スミスの神の見えざる手というものの比喩である。
取引の介在するところには神の見えざる手の原則が働き、誰もそのルールから逃れることはできない。
つまり、マサカキの言うとおり上の決定には逆らえないわけである。
極東金融街が崩壊したあとですら、神の見えざる手は存在し、マサカキは再び姿を現す。
そして、ラスボスアメリカの存在
本編では軽くしか触れられてこなかったものの、アメリカがラスボスである。
リーマンショックはアメリカが震源地であるにも関わらず、中南米に危機を押し付け、結果的にカリブが消えることとなった。
今回はシンガポールが震源地の金融危機を、周りの国を犠牲にすることで難なく回避した。
さすが基軸通貨を持つ国である。
日本経済と極東金融街のボスである三国が全ての未来を犠牲にしてまで防ごうとした規模の金融危機ですらあっけなく跳ね返してしまう。
しかも最終的に日本を経済的に支配することに成功しかけている(もしかしたらしているかも)
本作影の最強の敵である。
三国は果たしてどうやってこのラスボスとやり合うつもりだったのか。
金融街は地域を超えて戦えない(ディールできない)ため、非常に厳しいものであっただろう。
サトウはなんだったのか
サトウはIMF所属である。
金融街に潜入して上司に極東金融街の異常と危惧について報告を入れているものの、上層部は具体的な行動を取らない。
サトウ自身は三国の未来を犠牲にするスタンスに懐疑的で、極東金融街をぶっ壊すことで金融街の影響を最小化できると考えている。
IMFの本部はアメリカであり、アメリカの中央銀行の幹部がアメリカ金融街の住人であることから、極端な対応を極東で打たれることでアメリカのコントロールから外れることを嫌がっている。
また、IMFは為替相場の安定を目的とした機関なので、やはり極東金融街で問題が起こって日本円が騰落することを好まないだけという可能性もある。
やはりラスボスアメリカ繋がりである。
今これを見る理由
公開から10年経ち、日本は更に三国的世界観になっている。
国債を発行し続け、金を刷り続け、信用は膨張している。
好景気を支えているのは将来の借金である。
そして少子高齢化は歯止めが効かない。
恐らく近いうちにどこかで金融システムがクラッシュすることだろう。
我々の住む極東金融街は、果たしてCを免れることができるのだろうか。
小ネタ
使われなかった株の存在
アセットが持っている株を売って換金する設定はあまり使われなかった。
wikipediaを見ると配当金とか整理ポストとか2体目のアセットの入手方法とか色々あるっぽい。
週に1回のディール
株は平日は毎日場が開かれるため、それを模していると思われる。
宣野座の野球
宣野座戦後に球場のシーンがある。
スコアボードには1対2。
つまり、宣野座は1対0の僅差で買って公麿を破産させるつもりは無かったのだが、それが逆転負けを招くことに。
ホームベースを踏まなかったのも渋い演出。
一番好きな回かもしれない。
一番好きなキャラは情報屋の竹田崎
登場人物の中でいちばん商売をしている。
戦わずして金を稼ぐ賢い奴。
しかも情報を売れば売るほど信用が高まり情報が集まるという美味しい立場になっている。
Wikipediaによるとディールは八百長とパスで乗り切っているらしい。
ブルームバーグとか日経のメタファーだろうか。
日経に信用があるかはともかくとして。
序盤の三国って本当にかっこいいんですよね。
若くて未経験の主人公を目にかけて、成功者として確固たる信念を持ち進むべき道を進むメンター。
途中からは清濁合わせ飲む大人としての存在感が増していくのだけど。
この関係性は、アントレプレナー同士ではあるが、先輩起業家が若き起業家に投資するものに近い。
実際に序盤で三国は公麿に投資しているしね。
追記: 2021-04-14
監督のインタビューが面白かった。
相当に取材を重ねて、それをうまくエンタメに昇華したということが分かる。
アメリカの描き方だったり、NPOの人の描き方だったりも、なるほどと思わされる。
https://www.itmedia.co.jp/makoto/spv/1104/14/news009.html