服のトレンドとの付き合い方は難しい。
ノームコアなんてものが流行って数年、もうファッションは終わったなんて言われたのも今は昔、世の中は当時とぜんぜん違う服を着ている。
資本主義に飲まれることなく、かといって適度にトレンドと付き合うことはできないだろうか。
方向はいくつかある。
ひとつ目は毎年服を買う。
ユニクロがこれだけでかくなって、ユニバレなんてことも言われなくなり、ユニクロ商品がオシャレになって数年経つ。
インフルエンサーは金のために、オシャレではない人向けにユニクロを勧めるし、その結果ユニクロが転売の対象になったりする。
ユニクロはファストファッションではないなんて人もいるけど、十分に消費される服だ。
数年前にユニクロで買ったトレンチコートが今も違和感なく着られるだろうか。
おそらく難しいはずで、ユニクロはトレンドを意識して商品を作っている。
とうぜんユニクロ以外のブランドもそうで、毎年服を買っていればその年のトレンドには乗れる。
でも今年買った服が来年ゴミになる。
しかもそれが数万円、なんてサイフにも環境にも良くない。
じゃあトレンドと距離を置くにはどうすればいいか、分かりやすいのがベーシックなものを着る、というものだ。
でも、少し考えるとこれってすごく難しい。
だって、何がベーシックかはトレンドとの相対的なから価値観でしかないし、そもそも多くのブランドがトレンドを意識した服作りをしているため、ベーシックな服が手頃に買えるなんてのは簡単に見えて難しいことだ。
無地の服がベーシック、という価値観も長い目でみたらここ最近の、とくにノームコアの流れを汲んでいる。
じゃあ次に、もう少し別の視点から。
独特の世界観を持った服を着る。
たとえばヨウジヤマモトやロリータファッションなんかは、トレンドに左右されにくい。
大量生産されるものでも、多くの人に着られるものでもないから、毎年トレンドが生まれるわけではないし、普通の人が切る服とはシルエットから異なっている。
誰もに理解されるわけではないが、時代遅れになりにくいスタイルといえる。
原宿系なんかもこれかな。
ここで、時代遅れのファッション、というのを考えてみる。
時代遅れのファッションは、別にトレンドに沿わないファッションすべてを指すわけでない。
かつて流行っていたスタイルで、多くの人がそれを着たり目にした記憶がある、けれどももう誰も着ていない、というものだ。
ヨウジヤマモトは誰もが着ているわけではないし、和服もかつては誰もが着ていたけれど、あまりに昔のことなので時代遅れとは感じない。
つまり、流行りと距離を置くことからファッションに消費されることとの決別が始まる。
さて、次はアイテムを変えること。
いまの流れは無地でかっちりした流れから、ゆるくてリラックスしたスタイルになりつつある。
コートはどんどん長く、緩くなっている。
レディースだとフード付きのコートなんかも流行りだ。
でも、それは本来のアイテムが持つシルエットとは異なる。
トレンチコートやチェスターコートには、それぞれある程度原型の形があって、そこから外れるほどデザイン性やトレンド性が高くなる。
それは時代かもしれないし、デザイナーのセンスかもしれない。
目的の雰囲気を出すために、本来のシルエットから大きく外れないベーシックなアイテムを選ぶ、そのアイテムを変えること、がこの選択になる。
たとえば緩さを出すときに、普通のチェスターコートやステンカラーコートではカッチリしすぎる。
これを今のファッションでは、シルエットを大きくしたり、丈を長くすることで緩く見せている。
そうじゃなくて、アトリエコートを着てみたり、モーターサイクルコートを着てみる。
これらはビジネスシーンでは着られない服だし、シルエット自体がフワッとしていてリラックスしたゆるい雰囲気が出せる。
しかも、本来のアイテムの持つシルエットなので、いまの流れが変わってもあまり古くなりにくい。
この方向性は妥当性が高い選択ではあるものの、選択の難易度もまたやや高い。
次はビジネスに寄る。
簡単に言うと平日にもスーツを着る。
スーツはある程度の決まり事があるので、そんなに極端なスタイルにはならないし、流行り廃りがあるものの、カジュアルウェアよりももっと長い期間を経て変わるものだ。
時代遅れになりにくいし、着こなしのお手本はたくさんある。
見慣れたアイテムだと仕立ての良さや生地の良さも伝わりやすく、流行り以外の面で勝負だってできる。
着心地がいまいちだったり、よく見せるには良いものを買う必要があったり、TPOを考える手間はあるものの、多くの人が正解を狙える選択でもある。
仕事でも使えるしね。
最後が流行りに乗らないブランドを選択して買う。
他の選択肢とかぶる部分があるけれど、流行りに乗らないことを意識しているブランドというのもあって、意図的に時代に沿わない選択をしているのでこれも息が長い。
ヤエカなんかがこの枠だろうか。
モードファッションでも時代に沿うグループと沿わないグループがあって、たとえばヴィトンみたいなブランドはそれなりに時代性が高い、古くなりやすいブランドだといえる。
消費させるためのトレンドと、それへのアンチテーゼがあって、大手はだいたい前者だ。
さて、ここまでの話をまとめると、トレンドに乗らない、ということは、皆と一緒ではないし、皆に理解されることからはちょっと遠ざかる。
少し頭を使ったり、流行をそれとなく追ったり、あるいは金を出す必要が出てくる。
誰もが同じものをいいと思う社会、さらにはそういう国民性に背を向けるのは楽なことではないけれど、資本主義に飲まれるのも癪に触る。なんてぼくみたいな人もいる。
こんなことなら毎年ユニクロで服を買うほうがよっぽど楽なんて人もいるけれど、自分なりに消費と向き合って、身につけるものを選択するのも、また一つの楽しみ方なんじゃないのかな、と思う。